目次
持続可能な社会の実現に向け、近年、特にその重要さを増している「静脈物流」。より環境への配慮が求められる企業が、しっかりと理解しておくべき物流です。
今回は、静脈物流の概要と種類のほか、動脈物流との違い、市場規模、課題などについて解説。静脈物流に関連した主なサービスもご紹介します。
静脈物流とは
静脈物流とは、消費者(エンドユーザー)から生産者へと流れる物流を、血液の流れに例えた呼称です。
生産者から消費者への物流(動脈物流)とは逆の流れであるため、リバースロジスティクス(Reverse Logistics)とも呼ばれます。
静脈物流は、20世紀末には、社会の環境意識の高まりとともに、物流の流れのみならず「サブスクリプション等の循環サービス」や「リサイクル(サステナビリディ)に欠かせない物流」と認知されるようになりました。
具体的には、消費者から回収・返品された使用済み製品がリサイクル工場などを経由して、生産者(企業・メーカー)に戻っていくイメージです。
近年、静脈物流は、レンタル・返却・交換など消費者の利便性に寄与する「荷物を柔軟に送り返すことができる仕組み」を支える上で、欠かせない物流となっています。
静脈物流の種類
静脈物流には、主に以下の3種類があります。
- 廃棄物流
- 回収物流
- 返品物流
これらの物流は明確に定義付けられているわけではなく、各企業でその内容が異なることもあります。
ここからは、静脈物流の各種類の一般的な意味について、詳しく見ていきましょう。
廃棄物流
廃棄物流とは、リサイクルできない製品を引き取るための物流です。
近年は持続可能な社会の実現に向けて可能な限りリサイクル(資源循環)が推奨されていますが、それが難しい場合の選択肢といえるでしょう。
回収物流
回収物流とは、家庭や企業から出た商品を回収するための物流です。
具体的には、使用済みの製品やリコール対象となった回収商品、納品で使用したパレット・梱包材、オフィス機器、リサイクル対象品まで、回収する商品にはさまざまな種類があります。
とくに、リサイクル対象の一部家電は、家電リサイクル法を遵守した処分が必要となります。
返品物流
返品物流とは、返品対象となった商品を回収するための物流です。
返品となる理由には「商品の傷や動作不良」「店舗での売れ残り」「顧客の注文ミス」「リコール対象となったため」などが挙げられます。
企業・メーカーが原因の返品であれば、返品の輸送コストを企業・メーカー側が負担しなければならず、物流コストの増加が懸念されます。
静脈物流と動脈物流の違い
動脈物流とは、「生産者から消費者(エンドユーザー)へ流れる物流」です。消費者から生産者へと流れる静脈物流とは、逆の流れになります。
そんな動脈物流には、主に以下の3種類があります。
種類 | 概要 |
---|---|
調達物流 | 商品製造に必要な原料調達に関連した物流です。自社が取引先より原材料を仕入れるモノの動きです。 |
生産物流 | 社内拠点間における原料や製品などの輸送に関連した物流です。工場・倉庫・営業所など、社内間で原料や製品を移動するモノの動きで「社内物流」とも呼ばれます。 |
販売物流 | 顧客に対する商品の納品を目的とする物流です。一般消費者もしくは小売店・企業へ商品を配送します。 |
静脈物流の必要性
静脈物流が必要とされる背景には、以下のようなものがあります。
資源循環の必要性が世界的に高まっている
近年ではSDGs(持続可能な開発目標)が世界で共有され、各国が積極的な取り組みをみせています。日本でも持続可能な循環型社会の実現に向け、環境についての法律も整備されています。静脈物流は、資源循環を担うため、循環型社会の実現には欠かせない物流ということができるでしょう。
シェアリングエコノミーを通じてSDGsに貢献する
シェアリングエコノミーを通じたモノの貸し借りは、遊休資産の活用だけでなく、SDGsにも貢献します。限られたモノ・資源が有効活用でき、ゴミの削減につながるからです。スムーズなモノの貸し借りを実現し、シェアリングエコノミーを活性化する上でも、静脈物流が不可欠となります。
最終処分場の処理能力に限界がある
「令和3年版 環境・循環型社会・生物多様性白書(環境省)」によれば、2019年度末時点の最終処分場の残余年数は21.4年(全国平均)となっています。つまり、あと20年程度で最終処分場の処理能力が限界を迎える可能性が示唆されています。この課題に対しては、可能な限りリサイクルを推進し、ゴミそのものを減らすことが必要なため、静脈物流の重要性が非常に高いということができます。
再購入が促せる
製品販売に、古くなった製品の下取りサービスを設けることで、ユーザーに再購入を促すことが期待できます。
購入機会を増やすことが期待できる
無償での返品サービスを実施したり、気軽に返品できるお試しキャンペーンなどを設けたりすることで、ユーザーの認知度向上、もしくは接点が増えるなどして、結果的に購入機会が増える可能性があります。
静脈物流の市場規模
環境省が令和4年6月に公表した「環境産業の市場規模・雇用規模等の概要について(2020年版)」によれば、静脈物流が含まれる「廃棄物処理・資源有効利用」の市場規模は、年々拡大傾向を示しています。
具体的には、「廃棄物処理・資源有効利用」の2000年の市場規模は39兆4,530億円であったのに対し、2020年には49兆9,950億円にまで拡大しました。つまり、ここ20年で市場がおよそ127%拡大したことになります。
静脈物流が抱える課題
静脈物流が抱える課題には、以下のようなものがあります。
- 業務の複雑化
- 環境問題
業務の複雑化
静脈物流における業務の複雑化は、とくに産業廃棄物で顕著な課題です。
家庭から出る一般廃棄物の処理は、自治体が一括して実施しています。一方、産業廃棄物は、各店舗・企業が民間業者と個別契約して処理してもらうことが一般的です。このような状況が、静脈物流の非効率化・複雑化をもたらしています。
また、自社で商品回収・返品などの物流業務を実施している場合、規模が大きいほど業務が広範かつ複雑となり、管理コストも増大します。
環境問題
循環型社会の実現に欠かせない静脈物流ですが、物流そのものの環境負荷にも注意が必要です。
静脈物流の市場規模は拡大傾向にありますが、それに伴って物流の環境負荷が増大することは避けなければなりません。
このような課題に対して国は、環境負荷の低い海上輸送を静脈物流において活用すべくリサイクルポート(総合静脈物流拠点港)の整備を推進。2021年1月までに、国内22の港を指定しました。
静脈物流の主なサービス
近年では以下のように、静脈物流をベースとしたさまざまなビジネスが展開されています。
- 宅配回収サービス
- 宅配修理サービス
- お試し・返品無料サービス
最後に、上記ビジネスの詳細について見ていきましょう。
宅配回収サービス/サブスクリプション
宅配回収サービスは、回収・リサイクルして欲しい製品を引き取るサービスです。
製品を詰めたダンボール箱などは、宅配業者が自宅へ集荷してくれます。集荷された製品は、リサイクル業者が査定・買取を実施します。
回収の対象となるのは、小型家電リサイクル法の対象であるパソコン・スマートフォンなどの家電ほか、貴金属・アクセサリー・衣服・雑貨・書籍まで多岐にわたります。
例えば、2023年4月には、シェアリングサービスを提供する企業Aも日本郵便の物流倉庫を活用。スムーズな静脈物流(保管・洗浄・配達・回収)を実現する体制を整えました。
A社の課題
- 新しい倉庫を探していた
- ビジネスモデルに合った倉庫・配達業務構築が急務
- 現行の商品管理システム、WMS(倉庫管理システム)が脆弱
日本郵便での解決策
- 東京都内の物流拠点を活用
- 在庫の倉庫間移動から業務を改善までをサポート
- JP-WMS(日本郵便の倉庫管理システム)により出荷効率を向上
【改善フロー】
宅配修理サービス
宅配修理サービスは、自宅にいながら修理が完結するサービスです。
具体的には、インターネットなどで修理依頼を出し、後日、業者が自宅を訪問して製品を回収。修理完了後に、製品を自宅に発送してくれます。
近年は家電のみならず、靴や衣服の宅配修理サービスも登場しています。
お試し・返品無料サービス
お試し・返品無料サービスは、ネットショッピングなどにおいて、商品を試すことができるサービスです。
試した商品が合わなかった場合、無料での返品が可能となっています。
このようなサービスを設けることで、消費者の不安を払拭するとともに、購入のハードルを下げ、販売促進につなげることが期待できます。
日本郵便の「宛先ご指定便」は、EC事業者さま負担で返品ができるサービスで、お客様は郵便局やコンビニエンスストアで簡単に差出ができます。
お客さまが返品などの荷物を簡単に発送できるサービス 「e発送サービス 宛先ご指定便」の提供開始)
まとめ
物流は、生産者から消費者へ流れる「動脈物流」と、消費者から生産者へ流れる「静脈物流」の2種類に大別できます。
静脈物流は、商品の返品や廃棄物の回収などを担っており、環境問題へのアプローチや、持続可能な循環型社会の実現においても重要な物流といえるでしょう。
静脈物流の市場規模はここ20年で拡大しており、業務の複雑化などが大きな課題ですが、物流大手の日本郵便では、物流課題にアプローチするワンストップなソリューションを提供しています。
例えば、機密文書を溶解処理してトイレットペーパーなどにリサイクルする「機密文書溶解サービス」や、ペーパーレス化を実現するWeb郵便/Webレタックスなど、環境に配慮したサービスがあります。
このような事業所支援サービスほか「国内配送・EC」「物流アウトソース・スモールロジ」「海外配送・越境EC・国際物流」「プロモーション」など、動脈物流のサポートも充実していますので、 物流課題を抱える企業・EC事業者は、ぜひ利用をご検討ください。
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